鉄道模型の世界は、微細なディテールとリアリズムにその魅力があると思います。
しかし、その細部へのこだわりは一部のパーツが市場に存在しないという問題を引き起こすことがあります。
ここで脚光を浴びるのが個人の製作者達です。
彼らは、企業が手を伸ばさないニッチな需要に応え、独自のパーツを生み出します。
今回の記事では、そんな個人の製作者であり、オンラインショップ「キハ工房」の主、小関さんに取材しました!
鉄道模型やそのパーツの製作において、どのようなプロセスを経て、どのようなツールを使い、どのような工程を踏んでいるのか?小関さんの創作活動に迫ります!
プロフィール
こんにちは!
キハ工房/小関 龍馬
模型製作者
キハ工房とは
ーーー小関さんが運営するオンラインショップ「キハ工房」ではどのような商品が取り扱われていますか?
小関:主な商品はジオラマや模型を作るためのパーツです。
商品の大半がペーパーキットで、レーザー加工で作っています。
一部、3Dプリンターを使ったものもありますが、基本的にはペーパーキットが中心です。車両や車両のパーツ、ジオラマに必要なものなど、様々な商品を取り扱っています。
ーーーその中で特に推している商品などはありますか?
小関:キハ工房で特にお勧めの商品としては、「B-08 キハ51 ペーパーキット Nゲージ 1/150」があります。
この商品は前面を3Dプリンターで作り、従来の商品より一層クオリティを高めています!
さらに、電車の下の部分も全て紙で作っています。
ーーーえ!?紙で!?すごいリアルですね!
小関:そう言っていただけると嬉しいです。
紙でもこれほどまでにリアルに再現できる、それがキハ工房の商品の大きな魅力の一つだと思っています。
それではさっそく製作プロセスを見ていきましょう!
制作に必要な道具とソフト
「CAD(AR_CAD)の活用」
小関:設計にはAR_CADというソフトを使用しています。制作環境としては、Windowsでノートパソコンを活用しています。
ーーー全部ゼロから作るのですか?!すごい!
小関:そうですね。ただ、現在作っている車両は基本的な部分の設計が共通しているので、
一度設計を完成させれば、窓やドアの配置、車両の長さなどの違いはあるのですが、形状は大体同じなので、ゼロから作る時よりは楽です。
全く新しい形状の車両を作る場合には、またゼロから設計を始めなければならないので、その作業が一番大変ですね。
特に古い車両の場合、参考にする資料がほとんど存在しないのが難点だと思います…。
過去の雑誌などを購入して参考にしようと思っても、必要な情報が掲載されていないことがあります。そんな時は意外にもTwitterが役立ったりします笑
ーーーTwitterに情報が載ってるんですね笑
レーザー加工機の導入
小関:CADで設計を終えると、次にレーザー加工機で試作を作ります。
レーザー加工機でパーツを製作した後、それらを組み立てます。大抵の場合、何かしらの誤りが見つかります。
それが寸法の不一致であったり、あるいは初めて見える改善点であったりします。そうした問題点を見つけるとすぐにパソコン上で設計を修正し、再度試作品を作ります。
ーーーレーザー加工機では、どのような作業ができますか?
小関:レーザー加工機を使えば、切断や彫刻などが可能です。私は主に紙を使いますが、木材、アクリル、コルクなども加工することができます。
機械の大きさは家庭用プリンターより一回り大きく、加工できる素材のサイズはA4までです。
ーーー紙の素材は何を使われていますか?
小関:主にケント紙という厚紙を使っています。裏表にコーティングが施されているものです。
ネットの紙専門店から購入しています。
3Dプリンター
小関:当店の商品で言えば、ホロ(電車の連結部分)を3Dプリンターで作っています。このパーツは結構小さくて、約1センチです。
ーーー1センチ!?それほど細かく作れるのですね!
小関:そうですね。光造形の3Dプリンターを使用しているので、細かな部分も再現できます。ただ、光造形は強度があまりないです笑
ーーーなるほど。そういう、細かいパーツって需要がありそうですね!
小関:その通りです。実際、イベントでもよく売れます。
ちなみに、こういうパーツは鉄道模型メーカーからも販売されています。
ただ、メーカーが販売するパーツは細部が省略されてしまうことが多いので、キハ工房で作っているホロの特長は、そうした細部までを忠実に再現している点です。
サンプル品を作り、販売開始
ーーーそして最終的には商品として販売されるのですね?
小関:はい、車両の製作に問題がなければ、次はサンプル品の塗装となります。
そして完成したサンプルの写真を撮影し、ウェブサイトやパッケージに掲載します。最後に大量生産に移り、商品として完成します。これが「キハ工房」の製作フローになります!
作品を作る上でのこだわり
ーーー作品を作る際に特にこだわっているポイントは何でしょうか?
小関:私の目指すところは、商品を可能な限りリアルに再現することです。
ですが、リアルさを求めすぎてしまうと、製品の強度が低下し、壊れやすくなったり、または組み立てが困難になったりする可能性があります。
私が組み立てられても、全てのお客様が同じようにできるかというと、それは少し難しいかもしれません。
なので私が特にこだわっているのは、リアルさと組み立てやすさのバランスをとる事です。
そのバランスを意識して設計しています。
ーーーなるほど、お客様が組み立てる際のことも考慮に入れているんですね。
小関:そうですね、客様からお金をいただく以上、その部分には十分に配慮をするべきだと考えています!
趣味としての模型・ジオラマ制作の始まり
ーーーでは、ここからは小関さん自身についてお伺いしたいと思います!小関さんが模型やジオラマ作りを始めたきっかけは何でしょうか?
小関:実は、鉄道模型の世界に足を踏み入れた理由は特に大きなものではなく、幼い頃から工作が好きだっただけなんです。
小学校の頃、一番好きだった教科は図工で、何かを手作りすることが好きでした。
それが鉄道模型へとつながったのは、自分の持っている車両を展示するジオラマが欲しくなったからです。
そこから自分で車両やジオラマを作り始めるようになりました。
ーーーなるほど、それではなぜ特に鉄道模型に興味を持ったのでしょうか?
小関:それはちょっと難しい質問ですね笑
多分、男の子は大体、小さい頃にはトミカやプラレールで遊ぶじゃないですか。
そこから自然と、次は鉄道へと興味が移っていったのかもしれません(笑)。
あとは私の父が鉄道会社で働いているというのもあって、だいぶ影響されているかもれませんね。
趣味からビジネスへの転換
ーーー趣味からビジネス展開に踏み切るきっかけは何だったのでしょうか?
小関:実はそのきっかけは、アニメから得たインスピレーションでした。
ーーーそうなんですか!?
小関:そうなんです。
「冴えない彼女の育てかた」いうアニメを見て、主人公たちが自分たちで思考し、自分たちだけで作ったものをコミケで販売する姿を見て、何か自分もやりたい!と強く感じました。
ただ、私はゲームを作るつもりはなかったので、自分の趣味である鉄道模型に関連した創作活動をすることになりました。
ーーーそれは驚きです。アニメからインスピレーションを得て、鉄道模型という全く異なる領域に飛び込むとは!
小関:そうですね。
それと同時に、特定のパーツが市場になかったり、あるいは素材が違ったりなどの課題を見つけ、それらの問題を解決するために、お客様が手軽に製作できるようなペーパーキットを設計することになりました。
そういった経緯からイベントへの出展や自分のネットショップを開設するまでに至った、という感じです。
ーーー「キハ工房」という名前の由来は何でしょうか?
小関:「キハ」は電車の名前で、「工房」は自分の製作場所、ガレージを表しています。だから「キハ工房」です。
鉄道好きな人は、よく「キハ〇〇系」と検索するので、この名前を見ればすぐに何を売っているショップなのかが分かりやすいと思います。
ーーーなるほど!よく見たら、アイコンの線路の部分が「キハ」になっているんですね!
スランプとの向き合い方
ーーー制作に取り組んでいると、スランプに陥る時があると思います。そんな時、小関さんはどのように対処されていますか?
小関:そうですね、制作が面倒くさいと感じた時は、「もうやらない」。一時的に制作を止めて何か違うことをします。その辺は深く考えたことないですね笑
ーーーそうなんですね笑
小関:とりあえず、「一晩寝て、明日考えよう」という感じです!
先のことを考えすぎても、あまり良い結果が出ないと思うので、とにかく積極的に新しい作品を作り、イベントなどに参加して作品を世に出すことが重要だと思っています。
ーーーそれめっちゃいいですね!クリエイターとしての心構えとして非常に大切なことだと思います!
先のことを考えすぎてうまくいかない人も多いですから、小関さんのような考え方はとても参考になります。
最も難しかった作品
ーーーそれでは、キハ工房で制作していた中で一番難しかった作品は何でしょう?
小関:車両キット全般ですかね笑
その中でも特に難しいのは車両の部品を正確に曲げる作業です。曲げる作業を行うとき、寸法が何ミリになるかというのを計算しているのですが、実際に曲げてみると計算上の寸法と一致しないことが多かったり……。
何回か試作をして、その結果を基に寸法を調整するという作業を繰り返すのが大変ですね。
うまくできた作品
ーーーでは反対に、一番うまくできたと思う作品は何でしょう?
小関:うまく作れたと感じている作品としては、「木組みの家」のペーパーキットですね。
このキットはカラーペーパーで作られていて、組み立てるだけで完成するので、模型作り初心者にもおすすめです!
ーーーおお〜!おしゃれな家ですね。これなら私も作れそうです!
今後やりたいこと、創作の喜び
心から愛するものを作り、それに共感してくれる人がいればそれで十分
ーーー今後の目標などを聞かせてください!
小関:いろんな店舗で、「キハ工房」の商品を取り扱ってもらうことです!
現在は一部の店舗で商品を置かせていただいています。今後も活動を更に広げ、他の店舗でも取り扱ってもらえるようにすることが目標です!
ーーー創作活動を通じて得られる喜びについて教えてください。
小関:一番の喜びは、イベントで直接お客様から「この商品いいね」「これが欲しかったんだ!」と言われる時です。
自分の趣味の延長線で作ったものが、お客様の求めているものと一致する瞬間は、非常に嬉しいです。
キハ工房の活動は、お金を稼ぐためだけではなく、「心から愛するものを作り、それに共感してくれる人がいればそれで十分だ」という考えから始まっています。
なので感謝の声を頂けると、本当にこの活動をやっていて良かった、という気持ちになりますね。
〜告知〜
こちらのイベントに、「キハ工房」も参加しています!
小関さん、ありがとうございました!
今回はキハ工房を取材させていただきました。
鉄道模型の世界は奥が深い!
膨大な数のパーツ、それぞれの個性が反映された自家製作の作品など、まさに知らぬ世界が広がっていました。
特に魅力的だったのは、模型製作に使うツールでした。
レーザー加工機ってすごい!
でも、お高いんでしょ〜?
どうやら本当に高いようです。
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(取材・編集・アイキャッチ制作:畑山)
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